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TRPGに何を見るか

その4:サンプルシナリオは何故難しいか

2014/01/15 初稿

 TRPGのシステム(ルール)には大抵「サンプルシナリオ」が収録されています。そこには、プレイヤー(以下PL)の推奨参加人数やレベル・能力などの特性、NPCの位置づけ、場合によってはPL達が演じるPCの設定まで用意されています。本サークルでのTRPGセッションでもサンプルシナリオを採用することが多々あり、私もその一人ですが、その主たる理由は「シナリオを考える手間が省けるから」ではないでしょうか。しかし、GMだけでなくPLの思惑が関わるのがTRPGなので、サンプルシナリオどおりに物語が進むことは稀で、それが原因でGMが困惑することもあります。しかしだからといってGMが「サンプルシナリオに載ってないので対応できません」なんて言ってしまったら、場が白けてしまい、GM・PL全員がセッションを楽しむことは不可能になるでしょう。
 さて、今回はこの問題について掘り下げてみようと思います。

 人間が古くから活用してきたコミュニケーションは“対話”すなわち「双方向対面同期の少人数(または一対一)コミュニケーション」です(このトピックについては前回寄稿でも述べましたね)。また、このときのコミュニケーションで送受信するメッセージは「言語情報30%、非言語情報70%」という説が有力です。ここでいう非言語情報とは表情・ジェスチャー・図解などのことを指し、TRPGのセッションではキャラクターシートのイラストや、GMが提示するマップ、戦闘シーンにおけるPC・NPCの配置などが挙げられます。ところでシステムに収録されているサンプルシナリオでは言語情報・非言語情報の比率はどの程度でしょうか? 計算して明示するのは難しいですが、言語情報が大半を占めており、非言語情報は僅かではないでしょうか。そのためサンプルシナリオをそのまま理解するのは困難だと私は思います。

 このようにバッサリ斬ってしまったら、歴史に残る数多の名書も「読むのは困難」と、まとめて否定してしまいます。それは先人達に申し訳ないので、敢えてサンプルシナリオを「読み込む」場合を考えてみましょう。この場合、「サンプルシナリオ→読者」という一方向コミュニケーションがイメージできるかと思います。しかしそのサンプルシナリオは「誰か」が記述したものです。よって正しくは「執筆者→サンプルシナリオ→読者達」のように、サンプルシナリオというメディアを介した執筆者・読者達の一方向分散非同期不特定多数コミュニケーションになります。前回の寄稿でも述べましたが、このような環境ではコミュニケーションが困難になります。具体的には、サンプルシナリオ執筆者が、それを読んでくれるTRPGゲーマー達全員からのレスポンスを受け取れない状態で、それでも彼らが理解できるように説明するのは困難です。そのためサンプルシナリオを読むことが難しくても仕方ないと私は思います。
 ここまで論を進めた結果、サンプルシナリオを収録する意味を失ってしまいました。では、システム掲載のサンプルシナリオは取るに足らない無価値なもの、と結論づけて良いのでしょうか? 私は「NO!」と答えます。これは読み手の問題であり、すなわちサンプルシナリオを読む側の“読み方”に問題があると私は考えるからです。

 大阪電気通信大学名誉教授である石桁正士氏は本の読み方を「本の読み方三段階」として以下のように述べています。それは「①内容を理解する、②内容を読者自身の体験に結びつけてみる、③行間を読む」です。これを踏まえてみると、冒頭で述べた「サンプルシナリオに載っていないので対応できません」は①の段階あるいはそれ以前と言えるでしょう。一方でGMがマスタリングに慣れてくると、サンプルシナリオの内容をPCの行動を加味し、その場でアレンジできるようになります。時にはサンプルシナリオの内容とは全然違う物語が出来上ることもあります。これは「②内容を読者自身の体験に結びつけてみる」のレベルまで読み込んだ結果、GMが自身の経験を結びつけてアレンジできるようになったといえるでしょう。そして更により経験を積んだGMのマスタリングでは、サンプルシナリオの内容からGMが必要と思った部分(例えば、NPCや敵キャラの構成など)を取捨選択し、一見するとオリジナルなシナリオを用意することもあります。これは「③行間を読む」のレベルまで読み込んだ結果、サンプルシナリオ執筆者の意図などをGMが読み取り、そして納得あるいは必要と思った部分を取捨選択できるようになったといえるでしょう。

 さて、ではどのようにして“読み方”の能力を「③行間を読む」まで引き上げれば良いでしょうか? これができないと、そもそもTRPGシステムを理解することすら困難になるでしょう(これは重要な問題です!)。私の拙い指導経験から答えるなら「とくかく沢山本を読む」となります。もちろんいきなり分厚い書籍を読む必要はありません。自分が読めそうな本を、自分のペースで読み(①内容を理解する)、「自分にも似た経験があるな~」といった具合に考えを巡らせ(②内容を読者自身の体験に結びつけてみる)、そして「著者がこの本で表現したかった事は何だろう?」と考えてみましょう(③行間を読む)。なおここでは読書を例に挙げましたが、新聞、漫画、ニュース、映画鑑賞などにも転用できるでしょう。
 そうすれば、サンプルシナリオを読めるようになり、またそれを上手に使えるようになるだけでなく、読解力が向上し、知識が増え、そして人間としての深みが増すでしょう。一石二鳥どころか一石三鳥、四鳥まで狙えそうですね!

 というわけで「本の読み方三段階」を身につけ、TRPGをもっと楽しみましょう!